核家族の当然視による少子化という観点

 少子高齢化に対して有効な対策を立てられないまま数十年が経過しています。結婚や出産を考える世代に対しての、経済的・法的な保護や助成が必要なのは当然ですが、対症療法的な対策を政府が考えるだけではなく、民間・文化のレベルでも見方を変えるべきではないかという一提案をしてみます。

 戦後の日本では、高度経済成長期における都市部での就業人口確保のため、農村部から大量の人の移動がありました。都市部での需要とともに、農村部での機械化による人あまりという供給面での理由もありましたが、思想的に移動を支えたのは核家族という生活形態を当然のものと見なす考え方でした。
 成長したら実家を離れて独立した家を建てる、という思想は世界的に見ても一部の民族でしか共有されていないコンセンサスでしたが、戦後の日本ではアメリカからの文化の輸入により、核家族が当たり前という状況を社会的に醸成されていきました。

 具体的に言うと、「大人になっても親離れできない人間は駄目人間だ」という蔑視です。

 この蔑視は大学進学時あるいは就職時に実家を離れて一人暮らしをする人を大量に作り出しました。当然ながら農村部から都市部という流れだけではなく、都市内部でも実家から離れて一人暮らしをする成年が増えることになりました。それによる副産物として、実家を離れた人間が個別に住むのですから、当然ながら住む家が大量に必要となります。つまり不動産需要が発生し、アパート・マンションなどの集合住宅や、就職して頭金が出来た人が一戸建てを購入します。各地の都市部に独立した人向け及び新しく「イエ」を立てる人向けの不動産が建てられていきました。首都圏では人口集中が進みすぎたために都心で一戸建てを建てるのはほぼ不可能になり、その周辺郊外に一戸建てを建てて長時間の通勤というさらなる副産物(というよりも副作用)を生み出しました。都会で働いていつかは郊外に庭付き一戸建てを建てる、というのが昭和後半のサラリーマンの夢あるいは終着点となりました。

 そして核家族の典型として、夫(イコール父)が働き、妻(イコール母)が家事と育児を行い、子が勉強する、という「ドラえもん」の野比家そのものの家庭が出てきます。この形態は好景気時には良くマッチしました。
 しかしバブル崩壊後の不況により上記の典型は崩壊しました。夫の収入が減ったことにより妻が専業主婦という立場を保つのが難しくなりました。家計を支えるためのパート、そして結婚時から共働きを選択する家庭が増えたために、家事及び育児に時間をかけられなくなりました。
 そこで人生プランの選択肢の中に、子どもを作らない、さらには結婚しない、という考えが出てきました。

 前提が長くなってしまいましたが、成人は実家を出るものだ、という考え方が少子化の一因ですよ、と言いたいわけです。

 そしてその少子化対策として、そもそも成人が実家にいてはいけないという考え方を改めてしまえばいい、ということです。
 エマニュエル・トッド氏やジャレド・ダイヤモンド氏の著作にもあったと思いますが、核家族を前提としないようにする、つまりは成人しても実家暮らしをして結婚・出産も家族(親・兄弟姉妹)のサポートを得られるようになれば、経済的負担・時間的負担も減るのではないでしょうか。
 核家族を前提とする民族あるいは文化ではない地域では、子育てはその子の両親だけではなく両親の親、両親の兄弟姉妹、その子の兄弟姉妹、さらには地域の大人達が関わるのが一般的です。
 共働きが当たり前になってきた現代日本社会でも、子育てを両親だけの責任にするのは難しくなってきました。言い換えると前述のように、両親だけの責任にしたために出産や結婚を行わなくなってしまったということになります。

 ちなみに、核家族を前提とする文化では両親が共働きでもベビーシッターを頼むのが一般的です。もちろんベビーシッターを雇う費用は必要で、それ以上に収入があることが前提です。
 核家族当然視の社会を続けるなら、ベビーシッターを雇う費用を子育て世帯に給付するというのもアリだと思いますし、いっそのことベーシックインカムという考え方もアリかも知れません。
 でも、ちょっと前にネットで頼んだベビーシッターによる子どもの事故死が発生したときに、「ベビーシッターを頼むのは甘え」とか言って、その子の親を非難する言説がネットで飛び交っていたくらいですから、日本社会でベビーシッターを頼むのは相当心理的ハードルが高いような気がします。

 自分の親兄弟も近所のコミュニティも頼れない夫婦が共働きをしながら子育てをするというのは非常に大変なはずです。子どもの両親個人のリソースに頼るのではなく、その両親を取り巻く家族あるいは公的扶助といった社会的なリソースで子育てしていかないと少子化は解決できない、というのが私の結論です。

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