
ヒトは恐れる唯一の動物だそうです。正確に言うと、未来に恐れを抱いて向上できる唯一の動物です。今この時については、どんな動物も捕食されそうになったり崖から落ちそうになったりしたら恐れ(という感情が正しいかどうか知りませんが)を抱いて必死に逃げるでしょうけれど、1年後、10年後あるいは集団全体の未来を恐れて正しい行動を取ろうとすることは、唯一ヒトだけが行えます。
それはヒト=人間個人や小さな組織だけの話ではなく、国家レベルでも似たようなものです。
「このままではいけない」
「国家の未来が厳しい」
「こうすれば発展できる」
という、未来への恐れとそれを解消するための行動を取ることが出来るのが人間であり、その産物である国家です。
日本で言えば19世紀中頃、開国を迫る欧米列強に対して、このままでは中国(清帝国)や他のアジア諸国のように侵略、植民地化されるかも知れないという恐れが、明治維新の原動力となり、明治新政府の富国強兵・殖産興業につながりました。
また、同時期の中国ではアヘン戦争の後に洋務運動、日清戦争の後に変法運動が起きました。
ヨーロッパでも、19世紀であればナポレオン独裁のフランスによる欧州統一を防ぐためにイギリスやロシアが抗戦し、また共産主義に危機感を覚えが支配層や知識人層が、漸進的な自由主義・民主主義・社会主義の改革を認めました。
そして超大国になったアメリカ合衆国も、その発展の一部は恐れから成り立っています。
20世紀の米ソ冷戦で言えば、前述のように共産主義がアメリカ国内や西側諸国に広がることを恐れていました。そのため、自由主義と資本主義の権化のようなアメリカ合衆国においても、数々の社会主義的な政策が実現していきました。また、それ以上に大きな予算配分を受けたのが軍事面です。
ソ連の宇宙開発の先行がもたらしたスプートニクショックは、ケネディ政権によるアポロ計画を生み出しました。多分ケネディではなくニクソンがその時に大統領であったとしても、アメリカの選択肢は同じだったでしょう。ソ連に宇宙から攻撃されるという恐れは、宇宙開発でソ連を上回ることでしか解消できないからです。
その結果は誰もが知るとおり、アポロ計画での成功もありましたが、そもそもソ連や東欧諸国は経済力で西側に全く追いつけなくな、80年代に至ってレーガン政権によるスターウォーズ計画などの軍備増強にソ連は白旗を揚げる結果となりました。
さらには80年代、日本と西ドイツに従来型の製造業で敗北が決定的になったアメリカは、資本・資源をコンピュータ・ITに集中させたことで90年代以降のIT革命を生み出しました。冷戦崩壊後のグローバル化と相まって、世界がインターネットでつながり、アメリカ基準でのIT産業がアメリカを発展させていきます。
自らが劣りつつあるという恐怖がアメリカを強大にし続けてきました。
見方を変えれば、恐れを認めて向上を目指すことで、個人レベルのみならず国家のような巨大な組織でも発展していきます。
そして逆の立場、アメリカ合衆国に敗れた方を見ると、旧ソ連は、自国や東側諸国の国力特に経済力が、日に日に西側諸国に劣りつつあるということを、内的には認めつつも公には出来ませんでした。国民もうすうすは感づいてはいましたが。経済力の差が開いた最も大きな理由である、失敗する運命にある計画経済を止めることは出来ませんでした。それが存在理由でもあったからです。
日本で言えば、アメリカの圧力やプラザ合意後の急激な円高、バブル景気とその崩壊などがあって、アメリカに敗れただけではなく30年近く成長発展が停滞するという悲惨な状況に陥っています。
ソ連も日本も現状の問題や将来の不安はあれど、それに適切に対処していないことが、アメリカとの覇権争いに敗れた究極的な原因でしょう。
現在は、中華人民共和国がアメリカ合衆国の覇権に挑んでいる真っ最中です。そして政権は代われど、アメリカの対中政策は大きくは変わっていないことから、中国の台頭によるアメリカの衰退という未来に対して恐れを抱いているのは、民主共和両党に共通していることを証明しています。
中国も鄧小平の敷いた韜光養晦路線は、既存先進国、特にアメリカからの干渉や対決を避けて中国を発展させるものであり、こちらもこのままでは中国は発展せず、市場開放だけは行うことで共産党支配を継続させるという意図がありました。同時期の共産主義諸国が革命で体制変更が起きたことに対する恐れがあったことは言うまでもありません。
そして今の習近平体制になって、ついにカムフラージュをかなぐり捨ててアメリカに対して鼎の軽重を問うようになりました。
今の中国は、自らが世界の一等国になり、アメリカと並ぶ二大超大国になろうとしています。人口や技術力などを考えると、もちろんそれはあり得ますし不可能ではないのですが、その原動力は「恐れ」なのか「驕り」なのか。
未来に対する恐れからまだまだ発展させねばならぬと思っていれば、それは遠からず実現するでしょう。アメリカを打ち負かすかどうかはともかく。
逆に、過去や現在の発展から驕りを抱えて、世界を動かそうとするのであればそう上手くはいかないでしょう。
恐れは備えや謙虚さをもたらしますが、驕りは不注意と傲慢さを植え付けます。今の時点で将来に対してバラ色の未来を描いて恐れよりも驕りの方が強くなっているのであれば、未来は見えているようなものです。
もちろん、中国以上にアメリカが驕り高ぶって、成長のための準備も政策も取らないのであれば、より酷くない方が勝つのでしょうけれど、挟まれる日本にとっては究極の選択になるのでしょうね。
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