プーチンが本気でウクライナに攻め込むかどうか、というのは2月中旬までは予想が分かれていました。人によってはポジショントーク的な観点で述べていたのでしょうけれど、実際には情報機関からの正確な情報を得ていたはずのアメリカやイギリスなどの見方が正しかったという結果となりました。
ロシアが経済的に窮乏するから軍事侵攻はない、と言う言説もありましたが、完全に間違っていました。経済制裁を食らうと分かっていても武力行使は行われました。全てが銭勘定で判断されるわけではなく、マイナスが明らかでも突っ込んでくる奴はいるということは誰にとっても教訓となり得ます。経済的理由は行動要因の一つにすぎないのです。
第一、独裁者の権力が経済制裁で揺らぐとは限らないことは、北朝鮮を見れば明らかですし、北朝鮮ほどの独裁権力が確立していないイランやトルコやベネズエラに対する制裁でも、反米的政権は覆されることはありません。
厳しい制裁を下せば矛を収めるとも思えません。ABCD包囲網に加えて対日禁輸措置という、当時最も厳しい制裁を下された日本が対米開戦に踏み切ったことも思い出されますが、じゃあ当時の三国同盟を組んでいる日本による帝国主義的拡張政策を関係諸国が公に認めるべきだったかというと、是とする人もあまりいないでしょう。
今後のロシアは中国以外の大国からの積極的支援が得られない中での戦いになります。緒戦は攻める方が成果を上げるのは当たり前ですが、膠着したり苦境に陥ったりすると、アメリカ以外の大国に水面下での交渉を持ちかけてくるはずです。
天然ガスを通じて大きな影響力を持つドイツやイタリアもその可能性はありますが、NATOとは関係の無いインドや日本もあり得るでしょう。そこで、もしもプーチンが日本を懐柔するための密約を持ちかけてきたらどうすべきでしょうか?
もしも、北方領土を返還あるいは事実上両国に帰属するようなウルトラCの秘密条約を持ちかけてきたら、日本政府は拒めるでしょうか?
公開して持ちかけてきたら、欧米諸国の批判を跳ね返して拒否するしかないですが、国内の一部の強烈な反対があります。もちろん、受け入れたら欧米からはロシアの属国扱いされますし日米安保もどうなるか分かりません。
万が一、北方領土を餌に日本が制裁から離脱して、欧米からも咎められなかったとしても、それは毒饅頭でしかありません。
例え日本に北方領土が復帰したとしても、将来的にロシアが武力で同地を取り返しに来ない保証は一切無いのです。直接条約を結んだプーチン大統領の間は大丈夫かも知れませんが、後の政権の独裁者が
「あの四島は日本に奪われたロシア領だ」
と宣言して軍隊を入れてくることは目に見えています。なぜなら、それはまさにクリミアに対して行ったことだからです。
1954年にフルシチョフがロシアからウクライナにクリミア半島を移管したという経緯なのに、ウクライナがクリミアをロシアから強奪したものだから取り返しただけだ、というプーチン大統領の屁理屈が2014年のクリミア併合の理由の一つになっていますが、もちろん我田引水の強弁に過ぎません。
同じことが北方領土にも起こり得ないとは言えません。ロシアの強権的政府の体制が変わらない限りは、もし万が一北方領土を復帰させることが出来たとしても信用は出来ないのです。
プーチン大統領が今後も永遠に指導者たり得ないのです。それは寿命のこともありますが、今回のウクライナ侵攻は一か八かの賭けでもありました。そしてかなり分が悪い賭けになってきました。
今後はウクライナの抵抗状況によってロシアとの講話の条件が左右されることになります。ウクライナの激しい抵抗、NATO各国の支援、世界的な経済制裁により、ロシアの事実上の敗戦として撤兵したとしても、プーチン大統領の権力は残ります。むしろ敗戦を機になおさら国内の独裁体制を強化するでしょうし、再びウクライナや周辺諸国への軍事行動や恫喝も行うでしょう。
それでも敗北した指導者が永続き出来るでしょうか? ロシアが権威主義的なのは広大な国家をまとめるためでもありますが、モンゴルやフランス・ドイツから攻められたトラウマにより、強い権力者を無意識的にも欲しているからでもあります。
ウクライナは小国ではありませんが、ロシアと比べれば大国とは言えません。そんな相手に事実上の敗北を喫した指導者が、独裁権力を維持できるでしょうか? 政府内での下剋上、軍部によるクーデターなどシナリオはいくつも描けるでしょうが、プーチンの次の権力者の座を争う動きも活発化してくるでしょう。
そこで体制まで行けば良いのですが、次に独裁権力を持つものが出てきたら、プーチンよりも予測も交渉も出来ないレベルの人物かも知れません。
独裁者を倒したらさらに質の悪い独裁者が出てくる、というのはよくあることです。何らかの手段でプーチンだけを入れ替えても権力構造に変化が無ければ、おそらく世界にとって良い方向には向かわないでしょう。
しかし、プーチンの健康状態に不審を抱いている報道もアメリカから出てきましたが、病気よりもクーデターや暗殺の方が恐れているのではないでしょうか。核部隊への命令をした際の映像を見ると、くっそ長いテーブルの端っこに座るプーチンと、軍部トップ2との間に相当な距離を空けていました。
https://mainichi.jp/articles/20220228/k00/00m/030/010000c
上記記事の2枚目の写真です。核攻撃の命令には軍部からの相当な反発があるはずですが、もうプーチンは誰も信用できなくなっているのかも知れません。
かつて日本が太平洋戦争の真っ只中で必死に防衛していた時、アメリカ・イギリス・ソ連は戦後世界秩序を話し合っていました。もしかしたら今まさに、バイデン米大統領・ジョンソン英首相・ショルツ独首相・マクロン仏大統領らによるプーチン後の話し合いをやっているかも。
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