ショートショート「ダブル・ダブル」

「ただいま……、あれ、兄貴いるの?」
「なんだ、俺がいちゃ悪いのか」
「いや、そうじゃなくて、ついさっき、そこの駅で兄貴らしい人とすれ違ったからさ。声かけたんだけど無視されたから、兄貴じゃないのかなとも思ったんだけど。兄貴は今日ずっと家にいるって言ってたよな」
「ああ、半日ずっといたぞ。気のせいか、他人の空似だろうよ。それか大きな鏡に映った自分を見たんじゃないのか? 俺らはそっくりの双子なんだから」
「まさか。いくら双子でもお互いは見分けが付くだろ」
「それよりも、お前こそどうなんだ。一時間ほど前にアパートの前を通らなかったか?」
「え? なんで? 俺その頃、映画館の中だぜ。ここら辺にいるわけないじゃん」
「いや、な。ふと窓から外を見たら、道を歩いていた男がお前そっくりでなあ。映画を見た帰りにしては早いし、どうしたんだと思って見てたら、そのまま通り過ぎたんだ」
「それこそ他人の空似だぜ。ん? どうしたんだ、兄貴。深刻な顔して」
「ああ、ひょっとして俺らが見たのはドッペルゲンガーじゃないか?」
「ええっ! ドッペルゲンガーってあれだろ。本人が死ぬ間際に全然別のところに姿を現すっていう……」
「そうだ。芥川龍之介なんかの有名人のドッペルゲンガーの目撃例もあるらしいぞ」
「じゃあ、兄貴がもうすぐ死ぬって言うことか?」
「なんで俺が死ぬんだよ。俺はお前のドッペルゲンガーを見たんだぜ」
「それなら俺だって同じ事だよ。俺が見たのは兄貴の奴なんだから」
「う……、それはあれだ。お前は自分のドッペルゲンガーを見たんだ」
「なんだよ、それ。だったら兄貴だって可能性は同じじゃんか」
「うーむ、これじゃあ、らちがあかないな。よし、駅まで行ってそいつを探そう!」
「そいつって、まさかドッペルゲンガーを探すってのか?」
「ああ、実際会って本人にただせばすむ話だろ? 『お前は俺たち兄弟のどっちのドッペルゲンガーなんだ』ってな」
「とんでもないこと考えるなあ。分かったよ、二人で探すか」
「そうと決まれば早速行くぞ。そいつがどっかいっちまわないうちにな」

「そいつが駅から俺らのアパートの方に向かって来ていれば楽なんだがなあ」
「そんな虫のいい話が……、おや? 兄貴っ! あれだよ、俺が見たドッペルゲンガー! ほら、あの向こうの歩道を歩いている奴だ!」
「おお、あれか、いやあれは俺が見たドッペルゲンガーだぞ。もっと近づけば……、んん? おい、あっちの方にも似た奴がいるぞ! どういうことだ?」
「さあ、俺にはさっぱり……。やはりドッペルゲンガーも二人いるっていうことか? ということはつまり……」

キキィーーッ! ドンドン!

「ああっ! ちくしょう、ひ、ひとをはねちまったよ……。しかも二人も。くそう、二十年間無事故無違反でトラック野郎をやってきたってのによ……。なんだってキョロキョロしながら道の真ん中に飛び出しやがんだ。は、早く救急車を……。しかし、トラックよりも怖いものを見たような顔をしてやがったな、あの二人……」

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