ショートショート「まねきねこ」

 ある駅前の通りに、小さな食堂があった。立地条件も料理の味も良い割には客足が少なく、店の主人は悩んでいた。そんなある日、一人のおじいさんがその食堂を訪れて、食事後、店主にこう切り出した。

「ご主人、失礼ですが、こちらのお店は繁盛しておらんようですな。この招き猫を厨房にお供え物と一緒に置いてみなさい。きっと繁盛しますよ」

と言って勘定を済ませて出て行った。

 主人は、見知らぬ老人に招き猫を渡されて戸惑っていたが、とりあえず厨房の一隅に供え物の煮干と共に置いてみた。

 そして翌日。果たして、客足は急に増えていた。店主は驚きのうちに一日を終えたが、例の招き猫のお供え物が無くなっているのに気が付いた。不審に思いながらも、今度は余った焼き魚を供えて店を閉めた。その翌日はさらに客が増えて忙しすぎ、お供え物が無くなっている事に気付いたのは、その次の日、客足がぱったり途絶えた時だった。

 ここに至って、お供えをした次の日は客が多い、という法則があることが主人には分かった。不思議な気持ちはあったが、とにかく供え物を欠かさず置いておくと客はどんどん入り、店は大繁盛していき、店舗も拡張して従業員を何人も雇うようになった。

 そんなある時、招き猫をくれた老人がまたその店を訪れ、招き猫を見ながら、

「ふむ、結構繁盛していますな。こいつも淋しいじゃろうから、このメスの招き猫を一緒に置いといてくれ」

と言って、もう一体招き猫を置いて去っていった。感謝も質問もする間も無く老人に去られてしまった店主は、老人の言う通りにし、お供え物も毎日二匹分用意した。そして当然の如く、大きくなった食堂も今まで以上に大繁盛した。

 数ヶ月経ったある日、忙しい一日を終え、後片付けをしていた店主が、他の従業員らに見られないよう隠していた招き猫を見に行って驚いた。オスとメスの招き猫の間に、子供と思われる小さな招き猫があったからである。戸惑いを抑えられないまま店を閉め、翌日店で仕込みを始めたところ、従業員の一人が

「大将、すみませんが独立したいので、のれん分けしてもらえないでしょうか」

と頼んできた。主人は驚きながらも、
(やっぱり、あの子供の招き猫を渡してやるべきなんだろうな)
と思っていた。

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