ショートショート「ゴミ処理」

「諸君、この町に溢れるゴミは、もはや問題にするには余りに過ぎた状態である。一刻も早い対処が望まれる、との市長の厳命だ」
 市庁舎の別館の会議室に、初老の男の声が響きわたった。
「市長って例のコンピュータのやつでしょ。あんなのに市政の何が分かるってんですか」
 最初の発言者よりもいくらか若い男が、横柄な口振りで応えた。
「環境課長のタナカ君か。慎みたまえ。市長は市長だ。法律と市民の合意で決まったことなのだから、敬意は表すべきだ」
 議長役の初老の男がたしなめた。
「議長、ともかく市長は市内のゴミ処理をお望みなのでしょう?」
「ああ、そうだ。早期の処理を命じられた」
「だったらその厳命を生かして、さっさと処理業者の選定や施設の建設をどんどん進めちゃいましょうよ」
「なるほど、早急な処理であれば、多少は予算が膨らんでもかまわない、ということなのだな」
「そうです。廃棄物処理や施設建設のための入札なんか、うまくやれば我々役人への実入りも……」
「こらこら、そういう事は露骨に言うものじゃないよ。全部言わなくても、ここにいる面々なら分かってるさ。魚心あればなんとやらだ」
「それで得た金や、あるいは業者に出させた金で票を操って、次回の市長選挙であのコンピュータ市長を追っ払っちまいましょう」
「そうだな。奴が来て厳格な市政とやらを実行されたおかげで、我々には正規の収入しかなくなってしまったからな」
「コンピュータなんかじゃなくて、やはり我々の話が分かる市長でないと」
「選挙で落選となれば、今の市長こそがゴミになるわけですね」
「はっはっは、上手いことを言うじゃないか、なあ議長……おや、いないぞ」
 密談とも言うべき会議に夢中になっていた面々は、話が一段落付いたところでようやく異変に気が付いた。
「あれ? 確かにいませんね。それに何だか変な音がしませんか?」
「うん? 外か?」
「何かの工事みたいだな……、いや、違う! この別館を工事服の男が取り囲んでいるぞ」
「どういうことだ? まるでビルの爆破解体を……」
 役人の発した声は、別館が崩れ落ちる音にかき消された。

 さっきの会議の議長役だった初老の男は、爆破解体を見届けた後、電話で話していた。
『市長ですか? はい、そうです。懸案の、市内に溢れるゴミの処理が終わりました。はい、はい……はい、明日までに報告書を提出いたします。はい……、それでは失礼いたします』
 電話を切った男は、瓦礫の山と化したかつての市庁舎別館を眺めながら、呟いた。
「君達、すまないな。知らぬ間に会議を抜け出して、結果的に騙したことになったのだから。君達はこの街に巣くうゴミだったかもしれないが、君達を葬り機械に従属する私は、果たして……」
 男は力無い足取りで歩き出した。その瞳は、濁っていた。

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