ショートショート「適性の時代」

 二十二世紀の初頭、K博士が考案した、新しいロボット生産システムによって、人類は様々なタイプのロボットを活用することが可能になった。唯一、その生産システムを採用しているこの工場では、多くの見学者が世界中から集まってきていた。

「みなさま、工場長のYと申します。本日は私が、工場内の見学の案内を務めさせていただきます」

「どうもよろしくお願いします。ところで、まず、質問させていただいてよろしいでしょうか」

「はい、何でしょうか」

「このような画期的なシステムが、特許で保護されてここでしか採用されていないことは分かるのですが、何故この工場でその特許を使用できることになったのでしょうか」

「はい、その件に関してはよく質問されるのですが、私も残念ながら詳しい経緯は聞いておりません。ただ、この工場のオーナーが、考案者のK博士の唯一の親類に当たる方で、博士から特許の使用権を譲られたとのことでございます」

 別の見学者が言葉を継いだ。

「そういえばそのK博士って、自殺なさったんですよね」

 工場長は答えづらそうに苦笑して言った。

「ええ、この工場の生産ラインを眺めてい留時、突如身を躍らせて階下に飛び降りたのです。実は……、私がその側に居合わせたのですが、急なことだったので止められませんでした。その直前、『人間なんてつまらないものだ』と呟いたのが、今も耳に残って離れません」

 工場長の突然の告白に、見学者達は一様に驚いた。

「そんなことが……。不躾な質問をしてすみませんでした」

「いえ良いんですよ。これは見学者の方々には何度もしている話ですからね。それでは工場内の各施設を見て回りましょうか。案内致しますので、どうぞ私に着いて来て下さいますか」

 歩き始めた時はまだ、見学者達は重い雰囲気だったが、多くの生産プラントやベルトコンベアが動く壮観なさまを見て、次第に明るい表情を取り戻していった。

「それでは人工頭脳の生産ラインを説明致しましょう。ここは、このシステムの中核とも言えます。K博士の提唱された『超ファジー理論』に基づき、様々な適性を持った人工頭脳が生み出されます。それから、その頭脳がどのような適性を持っているかを判別するテストを十分な時間をかけて行い、それに合った身体部分を取り付けます」

 見学者の一人が感心したように言った。

「ほう、従来のロボット生産システムとの違いは、頭脳が先に作られて、それに合わせた体を作る、ということですな。その適性というのは、具体的にどのようなものがあるんですか」

「そうですねえ。例えば、宇宙の辺境開拓などで活躍する肉体労働に向いているタイプ、技術者や教師などの頭脳労働タイプ、あるいは、パイロットや植民地総督など肉体と頭脳の両方が優れているタイプなんかに分けられますよ。もちろん実際にはもっと詳細に分類されて、その従事する作業に振り分けられるわけですが」

「ここで頭脳と身体が組み合わされたロボットは、すぐに使用できるのですか」

「確かにそれは可能ですが、適性や製造過程でのチェックミスなどの事態もあるので、現実には三ヶ月くらいから一年程の期間を、テスト期間として契約者が無償で使用します。そこで不具合があればこちらに返却され、無ければ契約を済ませて代金を頂くことになっています」

「結局、ロボット達は頭脳が出来て、それにあった身体を手に入れ、自らに適した作業にあてがわれて社会に出ていくというわけですね」

「ええ、その通りです」

「何だか、ロボットも人間も大して変わりませんなあ。あっはっは」

 見学者の一人がおどけて言った。他の人達は笑えない冗談だと思ったのか黙っていたが、

「しかも人間と違って寿命は半永久的ですからねえ。たまには嫌になりますよ、はっはっは」

 気にしていない様子の工場長は、金属製の丸い頭部を撫でながら言った。

 工場の中では、ただ、ロボットを作り続ける機械音が、間断なく響いていた。

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