「あのう、すいません。夢抜き地蔵へは、この坂を上っていけばいいんですよね」
都会からかなり離れた山のふもとで、青年が、すれちがった土地の人らしい老父に尋ねた。
「はあ、お前さん、あのほこらに行きなさるのかね」
「ええ」
「確かにこの道で合っとるよ。今から行けば夕暮れ時には着くじゃろうて」
「そうですか、ありがとうございます」
礼を言った青年はそのまま道を歩き始めた。その後ろ姿を見ながら老人は、
「そんなに辛いものなのかねえ、捨ててしまうほど」
と、誰ともなく呟いた。
老父の足では夕暮れ時ということだったのか、青年は夕暮れ前には目的のほこらにたどり着いた。
「かなり古く見えるな。でも作りはしっかりしてるようだ。これなら一晩くらいはゆっくり寝れそうだ」
青年は荷物を置き、ほこらの中に入って、目的の夢抜き地蔵に出会った。
「これが先輩の言ってた地蔵か。案外小さいな。まあ、でもここで一晩過ごせば、現代人らしく、夢など見ることのない機能的な人間になれるんだよな。夢なんて見るのは欠陥人間とされる現代じゃあ、今のままではどうしようもない。良い夢を見たところで、目が覚めたら何もないし、悪い夢を見たら精神的に辛いし。今日で夢を見なくなると良いのだけれど」
携帯食料で夕食を済ませた青年は、歩き疲れた体を休めるために、早々と寝袋に入って眠った。寝る直前に撫でて拝んだ夢抜き地蔵は、青年の枕元にあった。
青年は、最後の夢を見た。一面のモザイク模様が少しずつ消えていった。全てが無くなった後、あらゆるものを支配する黒と、あらゆるものを消し去る白が交互に現れた。そしてーー。
青年は目が覚めた。すぐに帰り支度をして、朝食も摂らずに下山した。山のふもとで、再びあの老父とすれ違った。
「おや、おはよう。もうお帰りかね」
「おはようございます。ええ、すぐ帰ります。都会でする事がいっぱいありますから。では、さようなら」
昨日出会った時よりも慌ただしく、青年は足早に去っていった。それを見送った老人は道を上り、先程まで青年がいたほこらに着いた。中に入って床板を外し、古びたほこらに似つかわしくない精巧なコンピュータと電磁波発生装置を点検しながら、老父は呟いた。
「やれやれ、また一人夢見る青年がいなくなったか。夢を見るような想像力旺盛な若者の芽を摘み取るための施設が、こんな姿をしているとは誰も思うまい。この地蔵が、側で寝ている者の脳波に影響を与え、二度と夢を見ることが出来ないようにする電磁波を発生するのだからな。現代のコンピュータ管理社会の敵をあらかじめ排除するのが目的だが、本当にそれだけなんだろうか。単にああいう若者を古くなったコンピュータが嫌っているだけじゃないのかな。自らの未来に無限の可能性を感じ、若さと野望に満ち溢れた若者を、老人が嫉妬するのと同じように……」
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