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  • Jリーグはあらゆる手段で協調して生き残るべき

    Jリーグが3月18日以降の試合開催についても延期することが基本的に決まりました。正式にはまだだそうですが、あくまで手続きだけのことでしょう。

    3月18日の公式戦再開延期を全クラブと合意
    https://www.jleague.jp/news/article/16816/

    Jリーグに関わる誰だって試合は開催してほしいでしょうし、今回の決定は残念なことですが、やむを得ないことだと誰もが表明していることはまだ救いがあります。困難には協調して臨まなければなりません。

    今回の新型コロナウイルスの影響でクラブが潰れることがあってはなりませんし、そうならないように最大限の配慮をしてほしいと思っています。

    資金力のあるクラブはそれなりに耐えられるかも知れませんが、そうでないクラブ、自転車操業的な経営状態のクラブもあるかも知れません。いつまでも延期というのも試合消化の関係上は出来ないでしょうし、無観客試合での公式戦開催も本格的に覚悟すべきでしょう。

    実際に無観客試合がこのような理由で行われたときに、ウイルス感染の終息後に有料・観客ありの通常の試合が行われたときとで、クラブ間に収入の格差が出来てしまいます。無観客試合もやむを得ないが、ホーム・アウェイで収入の有利不利がないように入場料収入の配分ということも考えざるをえないですよね。半々にするのか、6:4にするのか、差額をJリーグが出すのか、色々やり方はあると思います。

    むしろタイミング的にDAZNでの巨額の放映権料があるのも一つの助けとなるでしょう。それこそも、こういうときに分かち合うべきです。

    優勝や順位での賞金などやメディア露出に応じた傾斜配分・加重配分される分配金も加重の度合いを減らして、均等な部分を増やした方がいいでしょう。予算総額が少ないクラブの生き残る確率が高くなります。賞金の変更については、一年分で無理なら今後の数年分も先取りしてもいいかも知れません。

    今回の問題で、経済も急速に落ち込みます。クラブにお金を出すスポンサーからの入金も予定通りに入らないところも出てくるはずです。そういったことによってクラブが経営危機に陥りそうな場合、Jリーグの安定開催基金を利用した場合でもペナルティを無くすといった弾力的な運用や、規約上可能ならクラブが銀行から借りる融資の一部保証をリーグが行うということもありかも知れません。

    選手の報酬についても考慮が必要となってきます。収入が急速に落ち込んだクラブによっては選手の報酬全額を予定通りに支払えないかも知れません。その場合は一部の支払猶予・延期ということにならざるを得なくなってしまいますが、一部猶予する金額について、選手全員に同じパーセンテージを適用するのではなく、定額部分を決めて支払えるようにすべきです。それは上記のクラブへの分配金と同様です。

    例えば、年俸1億円の選手と1,000万円の選手とが、一律に50%支払い延期となると後者の生活が厳しくなります。1,000万円までは必ず支払い、それ以上の金額にのみパーセンテージを決めるなどの配慮が必要です。支払が厳しくなるのは選手年俸だけではなく、選手以外の従業員なども同様でしょう。クラブスタッフの人件費も含めて、月給20万のスタッフと、月換算の報酬が1,000万円の選手とを一律に按分するのも難しいです。そもそもの収入の少ないスタッフが生活難に陥らないようにすべきであり、この点は選手会や高額年俸の選手達にも理解してもらわないといけません。

    また、いずれはどこかのクラブでスタッフや選手に新型コロナウイルスの感染者が出てくるでしょう。その際に必要な実施措置なども出来ればリーグが決めてしまい、消毒などの費用もリーグがある程度負担すべきです。それこそ、試合を安定的に開催するために必要なことでしょう。

    試合再開については、これは相当な妄想論ですが、観客数の少ない試合でテストケースとして実行してもいいかも知れません。例えば、J3のU23の試合は客数が少ないです。ガンバ大阪U23で言えばほとんどの試合で1,000人も入りません。メインスタンド下層のみ開放していてもガラガラなくらいです。これを、メインスタンドだけではなく、バックスタンドや両ゴール裏も開放して、観客に密集しないようにしてもらえれば、試合観戦中のウイルス感染の確率は相当に減らせるはずです。いっそのこと、ガンバ大阪・セレッソ大阪・FC東京のU23同士の公式戦をこのようなテストで試してみるのもありではないでしょうか。少なくとも私は納得するし賛成します。

    こういった様々な対抗策は、公平とか平等とか個々の努力とか権利とかといった観点から見れば問題はあるかも知れませんが、何が一番大切か、重要か、という見方を一番上に置いて考えるべきだと思います。

    リーグ・クラブ・選手・サポーターが苦しみは分かち合うべきです。

  • ショートショート「不発ゼリー」

     夏の暑い盛りは過ぎ去ったが、しばらく歩くと、じっとりと汗が出て来るような夜だった。私は一人、夏祭りの喧騒の中にいた。景気の悪さのためか、規模も音も小さくなって数も減った花火が上がっていた。昨日、私は二十年勤めた会社をリストラされた。入社して以来、さしたる実績も功績も残していない者が、この大不況のあおりを食らって解雇されるのは、今の世の中ではそう珍しくもないだろう。

     あてどもなく近所の祭りを見に来たが、自分と家族の行く末を悩みながら歩いていた。気が付くと、花火の音も人々の話し声も聞こえなくなった。周りを見回してみると、いつの間にか屋台が連なった通りを抜けて、知らない場所に立っていた。

     別に道に迷った事を焦ったりはしなかった。一本道にいたので、どちらかに歩き続ければ知った場所に出るだろう、と思っていた。しかし、近所に全く知らない場所があったことに興味を抱いた私は、しばらく道の両側に注意を払いながら歩いた。すぐに、一軒の小さな屋台を見つけた。

     薄暗い街灯の下でその屋台は、オレンジ色の電球一個を灯して店を開いていた。屋台の上部に看板があり、そこには「不発屋」と言う文字が書かれていた。私と屋台を挟んだ向こうに一人の男がいた。私よりも年上に見えた、年寄りと言ってもいいくらいだが、顔つきは精悍だった。

     屋台に近寄った私と目が合った男は、いらっしゃい、と低くしわがれた声を発した。周囲の状況と屋台の雰囲気に不思議な魅力を感じていた私は、屋台の陳列棚に見入った。何せ、置いてあるものが雑多に過ぎる。食べ物もある、衣服もある。機械の部品らしきものもある。一体何を売っているのかと思い、さっき目にした看板のこともあって、店主に尋ねてみた。

    「あのー、この屋台って、何を売ってるんですか?」

    「何って、あんた上の看板見ただろう。その通りだよ」

    「『不発屋』ってやつですよね。でも、どういう品なんですか、これ」

    「どういうも何も、不発の物ばっかだよ。金物屋が売るのは金物だろ。たこ焼き屋が売るのはたこ焼きだろ。不発屋が売るのは不発物に決まってんじゃねえか。寝ぼけてんのか、お客さん」

     まくしたてられた私は一瞬ひるんだが、気を取り直して男をよく見てみた。老店主は節くれ立った手を組んで、陳列棚の後ろに座っていた。何かの職人のような格好をしていたが、暗くてよく分からなかった。

     私は、一番手前にある大根を手に取ろうとした。見た目は普通の大根だ。

    「待てぃ!」

     男に大きな声で動きを止められた。男の太い腕が目の前に伸びた。何か、かすかに鼻を突く臭いがした。

    「駄目だよ、あんた。うかつに商品に触っちゃ、危ない危ない」

    「え、えーと、でもどんなものかよく見ないと……」

    「見るだけならいくら見てもらっても構わねえ。だがはずみで爆発するといけねえから、触ってもらっちゃ困る」

     まだ爆発する可能性があるから「不発」と名乗るのは分かるが、そんな物を露天で広げて売っているのが気が知れない。物騒だそれ以前に、大根が爆発するのか?

    「だ、だ、大根が爆発するんですか? そのほかにもここに置いてあるもの全てがもしかして……」

    「ああ、そうだ。みんな爆発の危険があるよ。買ってくれたら厳重に包装して手渡すが、それまでは俺以外の人間は触れちゃいけねえんだ」

     触れてはいけない理由は分かったような気がしたが、それ以前の根本的な疑問がはっきりと残っている。

    「あの、それは分かったんですけど、この『不発物』って、何のためにと言うか、何に使うんですか?」

    「ああ、あんたこの店初めてらしいな。まあ、そう何度も来る人間なんて滅多にいねえしな。ところであんた、今、人生で行き詰まっているんだろう」

    「えっ、どういうことですか?」

     ズバリ言い当てられたが、一体この人は何者なのだろう。歩いて出た背中の汗はすでに乾いていたが、また汗がにじみ出てきた。

    「あのな、この店はな、そういう苦しんでいる人のみを客とするんだ。ただし、苦しんでいると言っても、すでに成功を成し遂げた後に困難に直面している人は別だ。俺らは、あんたのようにこれまでの人生の中でこれといった達成感を感じていない人間を相手にする。今まで『不発』だった人間に必要な品物を売るんだ。それがこれだ」

     男は、目の前に陳列されている品々に目をやり、言葉を続けた。

    「それでな、これらの『不発物』を持っていると、ある時、いつとは言えねえが、爆発する」

     やっぱり物騒だ。それに自分の人生を「不発」だと言われて不快に感じない奴はいない。たとえ図星だとしても。さっさと帰ろうと思ったが、構わず話し続ける老店主の言葉に引き込まれた。

    「これが爆発すると、それを持っていた人もその後すぐに成功する。どれくらいの成功かは、その品物による。爆発すると当然飛び散るから、何か覆いをしておかなきゃ危ないがな」

     何か不思議というか、不合理というか、変な事を言い始めた。それ以前に屋台全体が変なのだが。男が正気なのかどうか確かめようと、私は男の眼を見つめた。深いシワが刻まれた顔の中で、大きな目が光っていた。正気かどうかはよく分からなかった。

    「相当疑ってるな。まあ仕方がない。御守りだと思って買ってみなよ。月並みな言い方だが、騙されたと思ってさ」

     爆発する御守りなんてと思ったが、陳列棚をよく見てみると、安い品ならコーヒー一杯分くらいの物もある。男の言うとおり、騙されたと思って買ってみることにした。私は、棚の右の方にあった、小さなプラスチックの容器に入った紫色の物体を選んだ。

    「えーと、それじゃあ、その『不発ゼリー』っていうのをもらえますか」

    「何だ、一番安い奴じゃねえか」

     そう言いながらも男は、手元でゴソゴソと梱包して手渡してくれた。手に持った感じから木箱に入っているようだ。

    「爆発っつったって、怪我するようなことはまず無いから安心しな。ちゃんと扱えばの話だがな」

    「結局これ、どうしておけばいいんですか?」

    「ああ、起爆装置はそのビニールの上蓋だから、それを外さないといつまで経っても不発のままだぜ。まあそいつは爆発力が大したことねえから、机に置いて上から湯飲みでもかぶせておけば大丈夫さ。こいつだったら大変だがなあ」

     男は、十四型のテレビに手を掛けながら笑って言う。あんな物が爆発したら厄介というか事故になるんじゃないのかなあ。ちなみにそのテレビに付いてた値札には、新品の同型テレビと大して差のない値段が書かれてあった。本当に買う人がいるんだろうか。

    「あの……、ここに置いてあるもの全て爆発するんですよね」

    「ああ、そうだよ」

    「そのテレビも?」

    「ああ」

    「そのビールの缶や、乾電池も?」

    「そう」

    「そこにあるのは……、ノートパソコンですね。それも?」

    「みんな今『不発』なだけさ。このサンダルも、デンデン太鼓も、五月人形も、いずれ爆発する。品物の種類は、成功の度合いに関係ない。値段によるだけだ」

    「はあ、そうなんですか……。あっ、ところでさっき、『俺ら』と言ってましたけど、他にもこういう屋台があるんですか?」

    「あるよ。特に最近は苦しんでるお客さんも多いからなあ。店も増えとる。少しでも世の中のためになれば良いんだがね」

     老人は苦笑しながら俯いた。私には、彼も疲れているように見えた。

    「もうそろそろ店じまいするから、あんたも帰りな。遅かったら家族も心配するだろ」

     男の声で初めて私は腕時計を見た。もうかなり遅い時刻になっていた。私は慌てて帰ることにした。背中の汗はとっくに引いていた。

    「それじゃあ、帰りますけど、あのう、ここってどこなんでしょうか? 知らないうちにこの道にいたもんで……」

    「元いた祭りの所に戻るんなら、この後ろの林を全速力で駆け抜けな。それだけが唯一の方法だ」

     男は、左手の親指を立てて自分の後ろの真っ暗な林を指さした。

    「その木箱は走って揺れても大丈夫だから安心しな」

     それからこちらには目も向けず、屋台を畳み始めていた。早く帰りたかったので、男の言葉に疑問を持つ暇はなかった、立ち去る前に聞きたかったことを聞いてみた。

    「あの……、あなたは何者なんです?」

    「俺か。俺はただの、と言うより元、花火職人だよ」

     男は、そう言ったきり口をつぐんで、片付けを再開した。私は男への挨拶もそこそこに、林に入っていった。

     林の中は暗く、ひんやりしていた。入ってすぐ私は、思いっきり走り始めた。全力で走ることなど何年ぶりか分からないが、初めのうちは体が動いた。五分ほど経って息が続かなくなり、足が止まりそうになったとき、前方の林の隙間には、もう新たな木々の影はなくなっていた。

     私は、祭りの屋台の並んだ通りに出た。大半の屋台は店を閉めており、残りも片付け中ばかりだった。歩く人影も見当たらなかった。

     自宅に帰り着いて、木箱を開けた。白い発泡スチロールの詰め物の中に、容器に入ったゼリーがあった。上蓋をはがし、そっと机の片隅に置き、上から湯飲みをかぶせた。

     とにかく、変な夜だった。今が夢か現かよく分からなくなっていた私は、家族に何も言わず早々に寝た。

     翌朝早くに目が覚めた私は、自分の書斎の机に湯飲みと木箱を見た。

    (昨夜の出来事はやっぱり現実だったのか)

     ゼリーがどうなっているのか気になったので、かぶせておいた湯飲みを、手を伸ばして恐る恐る外してみた。ゼリーに変化はなかった。頭がだんだん覚醒してくると、普通の食用ゼリーで騙されたんじゃないかと思い始めたが、しっかりした木箱の費用を考えると、別に相手が丸儲けになるような商売ではないので、その思いは捨てた。第一、ゼリー自体が不気味である。色は濃い紫色で、匂いはしない。普通のゼリーのような、色が付いていてもある透明感というものが全くない。中が何かで詰まっているように見えた。触ってみたかったが、これが爆発するものだと信じるのであれば矛盾した行動だ。「元」とはいえ、花火職人の肩書きは怖すぎる。あの「不発物」の品々、みんなあの人が作ったのかも知れないし。

     色々と考えているうちに、家族が起き出したようだ。この事を知られても、昨夜酔っぱらっていたのか、今まだ寝ぼけているのか、のどちらかに思われるだけだろう。私はゼリーについて何も言わず、朝食をとって仕事探しに出かけた。この不況下では、すぐには再就職が決まるはずもなく、そのまま数日が過ぎた。私は毎日、朝晩に書斎の湯飲みを開けてゼリーを確かめた。だが、何の変化もなかった。やはり騙されたのかなと思い始めた、夏も終わりに近づいたある日、自宅に帰った私は、以前勤めていた会社の上司から電話があったことを妻から聞いた。すぐに折り返し連絡を取ると、私が退職直前にした大企業との交渉が急転直下まとまり、その立役者として私の功績が評価されたそうだ。そこで会社の方針が急転回して、私に戻ってきて欲しいとのことだった。思わぬ幸運に一も二もなく承諾した私は、家族と喜びを分かち合った。

     晩酌を済ませて書斎に入った私は、翌日の出勤の準備をしようとしたとき、横になって倒れている湯飲みを見つけた。

     その瞬間、あの日の夜の事を思い出した。私の眼はゼリーがあった部分に吸い込まれた。見ると、果たして、ゼリーは飛び散っていた。紫色の物体は、容器にも少し残っていたが、大半が湯飲みの内側に付着していた。私は腰が引けながらも、ゼリーに触れてみた。本来、半個体だったはずの物体は、すでに固くなっていた。もっとも、容器に入っていたときに触れたわけではないので、本当にゼリー状だったのかどうかは分からないが。
    (結局、これの爆発と私の復帰と、関係はあるのだろうか。同じ日にぴったり起こったのだから、おそらくそうなんだろうな)

     この事の仕組みを聞きたかったし、感謝の気持ちを伝えたかったので、あの老人にもう一度会いたくなった。丁度その日は、少し離れたY市で夏祭りがあることを思い出し、ひょっとしたらそこに屋台を出しているかも知れないと考えた私は、すぐさま家を飛び出した。電車で着いたとき、祭りは最も盛況な時だった。

     必死で探し回ったが見つからない。あの時と同じように、人気のない道や、林の中までも歩いてみたが、あの屋台もあの男も見当たらなかった。もちろんこの祭りに店を出している保証などどこにもないのだから、見つからなくて当然とも言えた。

     私は、探し疲れて路傍に腰を掛けた。気が付くと、花火が上がっていた。周りの人々から歓声が上がった。少し、大きな花火だった。

     ふと、背後に気配を感じた。振り返ると、例の老人が立っていた。会いたい人物に突然出くわしたので驚いた。

     男は、どっこいしょ、と言いながら私の傍らに腰を下ろした。そして、眼をパチクリさせながら私をしげしげと眺めた。

    「おお、あんた。こないだの客じゃねえか。どうやら上手くいったようだな」

     またも当てられた。私は戸惑いながらも経緯を説明した。老人はうんうんと頷きながら話を聞いていた。

    「あのゼリーだったらそんなもんだろうな。まあ、あまり高望みもどうかと思うから、あんたの場合はそれで良いだろう。人には分相応ってもんがある。大成功は大失敗に最も近いからな」

     相変わらず、達観したような口調だった。とにかく私は世話になったお礼を、と申し出たが、男はすでに代金はもらっている、それ以上はもらわねえ、と断固拒否した。頑固さではとうてい叶わないと思ったので、代わりに一連の事情や仕組みを教えて欲しいと願った。だが、老人は静かに首を横に振った。

    「そいつは駄目だ。手品でも催眠術でもねえが、結局のところ、何も知らない方が幸せだよ。悪いけどタネは言えねえ。そんな事よりも、これからの事を考えな。家族もいるんなら今度こそしっかりしなよ。俺が言えるのはそれくらいだ」

     男の話は終わったが、しばらくここに座っているようなので、私の方が先に立った。丁重に礼を言って別れ、帰り道に向かった。もう、花火は止んでいた。

     私の生活は通常に戻った。いや、昇進して以前よりむしろ、生活は良くなった。私は折に触れてあの老人の事、不発屋の事を思い出す。あの人、かなり疲れているように見えたな。大半の伝統職人と同じように、跡継ぎもいないんだろう。それはそうだろうな。今の日本に、他人の成功を導く物を作ろうとする人間なんて、まず見つからないだろうし……。

  • ショートショート「夢抜き地蔵」

    「あのう、すいません。夢抜き地蔵へは、この坂を上っていけばいいんですよね」

     都会からかなり離れた山のふもとで、青年が、すれちがった土地の人らしい老父に尋ねた。

    「はあ、お前さん、あのほこらに行きなさるのかね」

    「ええ」

    「確かにこの道で合っとるよ。今から行けば夕暮れ時には着くじゃろうて」

    「そうですか、ありがとうございます」

     礼を言った青年はそのまま道を歩き始めた。その後ろ姿を見ながら老人は、

    「そんなに辛いものなのかねえ、捨ててしまうほど」

    と、誰ともなく呟いた。

     老父の足では夕暮れ時ということだったのか、青年は夕暮れ前には目的のほこらにたどり着いた。

    「かなり古く見えるな。でも作りはしっかりしてるようだ。これなら一晩くらいはゆっくり寝れそうだ」

     青年は荷物を置き、ほこらの中に入って、目的の夢抜き地蔵に出会った。

    「これが先輩の言ってた地蔵か。案外小さいな。まあ、でもここで一晩過ごせば、現代人らしく、夢など見ることのない機能的な人間になれるんだよな。夢なんて見るのは欠陥人間とされる現代じゃあ、今のままではどうしようもない。良い夢を見たところで、目が覚めたら何もないし、悪い夢を見たら精神的に辛いし。今日で夢を見なくなると良いのだけれど」

     携帯食料で夕食を済ませた青年は、歩き疲れた体を休めるために、早々と寝袋に入って眠った。寝る直前に撫でて拝んだ夢抜き地蔵は、青年の枕元にあった。

     青年は、最後の夢を見た。一面のモザイク模様が少しずつ消えていった。全てが無くなった後、あらゆるものを支配する黒と、あらゆるものを消し去る白が交互に現れた。そしてーー。

     青年は目が覚めた。すぐに帰り支度をして、朝食も摂らずに下山した。山のふもとで、再びあの老父とすれ違った。

    「おや、おはよう。もうお帰りかね」

    「おはようございます。ええ、すぐ帰ります。都会でする事がいっぱいありますから。では、さようなら」

     昨日出会った時よりも慌ただしく、青年は足早に去っていった。それを見送った老人は道を上り、先程まで青年がいたほこらに着いた。中に入って床板を外し、古びたほこらに似つかわしくない精巧なコンピュータと電磁波発生装置を点検しながら、老父は呟いた。

    「やれやれ、また一人夢見る青年がいなくなったか。夢を見るような想像力旺盛な若者の芽を摘み取るための施設が、こんな姿をしているとは誰も思うまい。この地蔵が、側で寝ている者の脳波に影響を与え、二度と夢を見ることが出来ないようにする電磁波を発生するのだからな。現代のコンピュータ管理社会の敵をあらかじめ排除するのが目的だが、本当にそれだけなんだろうか。単にああいう若者を古くなったコンピュータが嫌っているだけじゃないのかな。自らの未来に無限の可能性を感じ、若さと野望に満ち溢れた若者を、老人が嫉妬するのと同じように……」

  • ショートショート「適性の時代」

     二十二世紀の初頭、K博士が考案した、新しいロボット生産システムによって、人類は様々なタイプのロボットを活用することが可能になった。唯一、その生産システムを採用しているこの工場では、多くの見学者が世界中から集まってきていた。

    「みなさま、工場長のYと申します。本日は私が、工場内の見学の案内を務めさせていただきます」

    「どうもよろしくお願いします。ところで、まず、質問させていただいてよろしいでしょうか」

    「はい、何でしょうか」

    「このような画期的なシステムが、特許で保護されてここでしか採用されていないことは分かるのですが、何故この工場でその特許を使用できることになったのでしょうか」

    「はい、その件に関してはよく質問されるのですが、私も残念ながら詳しい経緯は聞いておりません。ただ、この工場のオーナーが、考案者のK博士の唯一の親類に当たる方で、博士から特許の使用権を譲られたとのことでございます」

     別の見学者が言葉を継いだ。

    「そういえばそのK博士って、自殺なさったんですよね」

     工場長は答えづらそうに苦笑して言った。

    「ええ、この工場の生産ラインを眺めてい留時、突如身を躍らせて階下に飛び降りたのです。実は……、私がその側に居合わせたのですが、急なことだったので止められませんでした。その直前、『人間なんてつまらないものだ』と呟いたのが、今も耳に残って離れません」

     工場長の突然の告白に、見学者達は一様に驚いた。

    「そんなことが……。不躾な質問をしてすみませんでした」

    「いえ良いんですよ。これは見学者の方々には何度もしている話ですからね。それでは工場内の各施設を見て回りましょうか。案内致しますので、どうぞ私に着いて来て下さいますか」

     歩き始めた時はまだ、見学者達は重い雰囲気だったが、多くの生産プラントやベルトコンベアが動く壮観なさまを見て、次第に明るい表情を取り戻していった。

    「それでは人工頭脳の生産ラインを説明致しましょう。ここは、このシステムの中核とも言えます。K博士の提唱された『超ファジー理論』に基づき、様々な適性を持った人工頭脳が生み出されます。それから、その頭脳がどのような適性を持っているかを判別するテストを十分な時間をかけて行い、それに合った身体部分を取り付けます」

     見学者の一人が感心したように言った。

    「ほう、従来のロボット生産システムとの違いは、頭脳が先に作られて、それに合わせた体を作る、ということですな。その適性というのは、具体的にどのようなものがあるんですか」

    「そうですねえ。例えば、宇宙の辺境開拓などで活躍する肉体労働に向いているタイプ、技術者や教師などの頭脳労働タイプ、あるいは、パイロットや植民地総督など肉体と頭脳の両方が優れているタイプなんかに分けられますよ。もちろん実際にはもっと詳細に分類されて、その従事する作業に振り分けられるわけですが」

    「ここで頭脳と身体が組み合わされたロボットは、すぐに使用できるのですか」

    「確かにそれは可能ですが、適性や製造過程でのチェックミスなどの事態もあるので、現実には三ヶ月くらいから一年程の期間を、テスト期間として契約者が無償で使用します。そこで不具合があればこちらに返却され、無ければ契約を済ませて代金を頂くことになっています」

    「結局、ロボット達は頭脳が出来て、それにあった身体を手に入れ、自らに適した作業にあてがわれて社会に出ていくというわけですね」

    「ええ、その通りです」

    「何だか、ロボットも人間も大して変わりませんなあ。あっはっは」

     見学者の一人がおどけて言った。他の人達は笑えない冗談だと思ったのか黙っていたが、

    「しかも人間と違って寿命は半永久的ですからねえ。たまには嫌になりますよ、はっはっは」

     気にしていない様子の工場長は、金属製の丸い頭部を撫でながら言った。

     工場の中では、ただ、ロボットを作り続ける機械音が、間断なく響いていた。

  • ショートショート「そういうことか」

    「おう、雄二。久しぶりだなあ」
    「おう、光男。何年ぶりかな」
    「俺がアメリカに転勤になる直前に会って以来だから、五年になるかな」
    「もうそんなになるのか。どうだい、時間があるならそこの喫茶店で話そうぜ」
    「ああ、いいよ」
    「おや、その指輪。そうか、結婚したのか。水くさいぞ。連絡くらいくれよ」
    「ああ、すまない。向こうで忙しかったものでね。今も向こうから日本に出張しに来てんだ」
    「まあいいや。それより結婚の事、聞かせてくれよ」
    「結婚したのは三年前。相手はメアリーって言うんだ。もちろんアメリカ人だよ」
    「おお、国際結婚ってやつだな。やっぱ美人なのか」
    「うん、俺が言うのも何だけど、そうだよ。もう子供もいる。二歳になる」
    「そうか、そいつはめでたい。かなり遅いが結婚・出産祝いとしてここはおごらせてくれ。かなり安上がりだがな」
    「いや、うれしいよ。ありがとう」
    「ところで子供の名前は?」
    「ジャクソン=光彦って言うんだ。向こうで暮らしてるし、みんなジャックと呼んでる」
    「そうか。ずっとアメリカに住むつもりか?」
    「ああ。ジャックもアメリカ国籍にするつもりだ」
    「もう決めてるのか。何で?」
    「日本国籍にすると、反抗的になりそうで……」
    「その言いぐさは、日本人としてはいただけないなあ」
    「だって、俺の名字『天野』だぞ」

  • ショートショート「ミーハー」

    トントン。
    「お姉ちゃん、入るよ」
    「うん、いいよー」
    ガチャッ。
    「この前借りた漫画返して……、あれっ? お姉ちゃん、部屋中にあったアイドルのポスターとかグッズとかどうしたの? 一つも無いじゃない」
    「うん、あれねー、友達にあげたり捨てたりして、全部処分しちゃった」
    「えー! あれだけ熱心に集めてたのに? どうして?」
    「だって、今私の一番のアイドルのA君がね、インタビューで、『すぐに憧れの人の真似をするようなミーハーみたいなことはしたくない』って言ってたんだもん。私もそうしただけよ」

  • ショートショート「ブラウン・シグナル」

     出張先のY市で突然の強い雨に遭った裕二は、一軒の文房具店の軒先で雨宿りをしていた。店は閉まっており、気兼ねはしなかった。

    「しかし参ったなあ。いきなり集中豪雨になるとは。傘も持ってないし、どうしよう」

     早めに仕事が終わり、宿泊先へ帰る途中の災難に、彼は自らの用意の無さを嘆いた。

     雨は、強く激しく降り続いていた。道筋には、前も後ろも開いている商店はなかった。道の遠い先は、雨で霞んでぼやけていた。

     ますます勢いをつけて降る雨に、裕二は舌打ちした。このままでは動くに動けない。かといってここで釘付けにされてもたまらない。幸い風がないので、雨が斜めに吹き込むことはなかったが、一張羅はすでにずぶ濡れだった。ホテルはまだかなり遠い。タクシーを拾えそうな大通りまで走ろうとした時、彼は目の前に変わった光景を見つけた。

     それは、灰色の柱に据え付けられた信号機だったが、色がおかしかった。本来の青黄赤といった色合いではなく、ただ茶色一色なのである。黄信号が激しい雨でぼやけて見えているだけかとも彼は思ったが、青や赤のランプまで黄色なはずがない。故障して修理中の布でもかけられているのかとも考えた。しかし、目を凝らしてみると、茶色の部分が細かく動いていた。布でも黄信号でもないとなると、一体どういうことだと彼は気になってしょうがなくなり、思わず身を乗り出した。さらに閉まっている文房具屋の軒先から出て歩いた。すでに豪雨によって数メートル先の物でさえ霞んで判別しにくくなっていたので、雨に打たれるのも構わず、信号機の真下まで寄っていった。

     裕二は首を上に向けて、茶色の信号を凝視した。大粒の雨が顔を激しく叩いた。次第に目の焦点が合ってきて、ぼやけた景色がはっきりしてきた。彼は、茶色の信号の正体を知って仰天した。

     信号の丸いランプ一面に、無数の蛾が集まっていた。蛾は、幾重にも重なり合い、青黄赤の灯りが全く見えなくなっていた。

     ワサワサと小さくうごめきランプ上にとどまっている蛾を見て、裕二は呆然としていた。口を開けたまま顔を上げているので、雨が口の中に入ってきたが、気にならなかった。しかしまだ彼の精神は理性を保っていた。

     一体なぜ蛾がこんなにも多く、信号機に群がっているのか。誰かがイタズラで、ランプの表面に蛾が好んで集まってくるような液体なり匂いなりを付着させたのか。それは大雨でも容易に流れないような物体なのか。

     そこまで冷静に類推した裕二は、このまま信号が蛾たちによって塞がれていたら、この道を通る人や車にも迷惑だろうと思った。信号機を地面と結びつけている柱を、彼は何度も叩いたり揺さぶったりして、蛾を追い払おうとした。だが、それで離れた蛾は数匹に過ぎず、全く信号の色に変わりはなかった。雨はまだ、強く降っていた。

     裕二は周りを見回した。蛾をどけるために信号機に向けて投げるような物を探した。信号機の柱から十メートルほどのところに、ゴミ箱があり、そこで空き缶を見つけた。彼は両手に一つずつ空き缶をつかんで戻ってきて、もう一度茶色の信号を見上げた。

     裕二は大きく振りかぶって、信号機に向かって空き缶を投げた。青信号であるはずのところに強く当たった。その直接的衝撃と間接的振動によって、蛾は次々とランプから飛び立った。裕二は、やった、と思ったのもつかの間、再び我が目を疑った。蛾の去った丸いランプの部分に、人間の顔があったのだ。

    「うわあっ!」

     裕二の思考は混乱していた。思わず尻餅をついた裕二は、ランプから離れた無数の蛾の群れから数匹、自分に近寄ってくるのを見た。

     裕二は体を震わせながら走り始めた。もう一つの空き缶は握りしめたままだった。

     ひたすら走った彼は、前方に大きな黒い傘を差している男の姿を見つけた。全力で走っているため、ぐんぐん近づく。数メートルの距離になった時、裕二はその男に声をかけた。

    「た、たすけてください。蛾が、信号に、人の顔が……」

     息を切らしながら助けを求めた裕二は、もう一個の空き缶を使うことになった。傘をずらしてこちらを向いた男の顔が、蛾で埋め尽くされており、思わず缶をその人間に向かって投げてしまった。信号機の時と同じように、蛾がバラバラと散っていった。裕二は歯をガチガチ鳴らしながらそれを見ていた。

     その男に、顔はなかった。首と髪に挟まれていたのは、青信号のランプだった。緑色の光を発しながら、男がさらに裕二に近づいてきた。裕二は再び走り出した。

     もはや雨のことなど、裕二の意識からは全く消え失せていた。走っていると交番があった。

     ドアのガラス越しに中をのぞいたが、警官はいないようだった。奥にいるかもしれないと思った裕二は、交番の中に入ることにした。たとえいなかったとしても、とにかく安全に思える場所に身を置きたいと思った。中に入り奥に向かって、裕二は声をかけた。奥からコツコツと革靴の音がした。これで安心だと思った裕二は、そばの椅子に腰掛けた。

     警官が姿を現した。裕二は三度、肝をつぶした。警官の制服に身を包んだその人間の顔には、やはり無数の蛾が重なり合っていた。

    「ひいっ!」

     思わず悲鳴が出た。それを聞いた警官らしき男は、裕二に駆け寄ってきた。

    「どうしました? 何か大変なことでも?」

     男が発した声につられて、蛾たちが一斉に飛び散った。制帽と制服の間には、黄色の信号ランプが鎮座していた。

     それを見た途端、裕二の心は限界に達した。

    「うわああああっ!」

     裕二は叫び声をあげながら、交番から飛び出した。

    「危ない! 飛び出すな!」

     後ろから声をかけられてますます、裕二は勢いがついた。自らの顔を両手で覆って、大雨の中を走り出した。雨で足が滑って体が一瞬、浮いたところに、トラックが通過した。裕二ははねられ、数メートル横に吹っ飛び、雨に濡れたアスファルトに落下した。幾たびか転がり、仰向けの状態で裕二は静止した。両手両足を広げて、完全に停止した。

     顔面が血まみれになっていた。まだ血は出続けており、真っ赤だった。その赤い顔に、無数の蛾が飛来した。茶色の顔になった。雨はまだ、強く降っていた。

  • ショートショート「看板」

     一人の中年の男が、場末のバーのカウンター席に腰を下ろして飲んでいた。

    「なあ、マスター。いいかげん、店の前にあるあの看板、変えたらどうかね?」
     常連客らしいその男は、カウンターの中で静かにグラスを拭いているマスターに、そう話しかけた。バーカウンターには、オレンジ色の暗い光が上から照らされていた。
    「またその話ですか、お客さん」
     マスターはうんざりした様子で、手を止めずに答えた。
    「いや、いつもの話になっちまうけどな」
     グラスに残っていたウイスキーを一気に飲み干した男は、滔々としゃべり出した。
    「だってさ、このバーだけの問題じゃないけどよ、今はどこもかしこも人型ロボットだらけだろ。生身の人間の気配ってものがすっかりなくなっちまった。わずかに残っている人間が地球上からいなくなったら、いったいどうなるんだろうな、この世の中は。まあ、そういう頃には俺もいないだろうけど」
     男はマスターの後ろにある、かなりの量と種類の酒類を一つ一つ眺め、言葉を続けた。
    「ともかくだ。この店の中だって、俺とマスターのほかには、人っ子一人いやしない。そりゃあどんな街のどんな店でもだ。全てがロボット優先の世の中になってるんだ。こんな状況の中で、いつまでもあんな看板を掛けておいても、しょうがないと思うんだが……」
     話しながらも男は、次々と注がれるアルコールを体内に収めていった。
     そして、客の男に合わせて自分でも飲み始めていたマスターも、次第に自らの胸の内を語り出した。
    「しかしですね、お客さん。確かに今の状況は嘆かわしいことですし、うちの看板が時勢にマッチしていないのはよく分かっています。でも、だからこそ、私はあの看板を下ろしたくないのです。あれは私の希望でもあり、人類の未来の灯火でもあると思うのです。私は考えを変えるつもりはありません。世の中から人間がなくなれば、この店もなくなるでしょう、少なくともあの看板は。だからこそ、ずっと掲げていたいのです」
     いつしか、マスターは涙を流していた。自らの話が自らの心を強く打っていた。そして客の男も同様に、頬を濡らしていた。
     二人は泣いた。寂しげなバーの中で、ただ二人きりで泣いた。時折聞こえる機械音のほかには、二人の嗚咽しかしなかった。

     やがて涙も収まり、心も落ち着いた客の男は立ち上がった。
    「ああ、ちょっと感傷的になったかな。じゃ、マスター、お勘定」
     マスターも平常心を取り戻して応対した。
    「はい、ビール3ガロンにウイスキー角瓶で5本でしたね。ツケにしておきますよ。また来てください」
    「そうか、ありがとう」
     男は礼を言って、店のドアを開けた。その時、店の中を振り返った。店の奥の、明かりもないところに、腰のソケットに壁から出ているチューブを差し込み、燃料を補給しているロボット達がいた。
    「どうされました?」
     マスターが尋ねた。
    「いや、なんでもない。ごちそうさま」
     男は外に出て、ドアを閉めた。男は店の看板を見た。そこには、

    バー『アンドロイド』
        ロボットの方でもお気軽に

    と書かれてあった。
     男は、嫌な気分を振り払うかのように、時速六十キロメートルで走って、夜の闇に消えていった。

  • 党員集会や選挙って今はヤバいんじゃないですかね

    今年はアメリカ合衆国の大統領選挙が行われる年です。共和党の候補は間違いなく現職のトランプ大統領ですが、対抗する民主党の候補は乱立したままです。

    アメリカにおいてはかなり左寄りに見られるサンダース氏が有力と見る向きもありますが、彼だと共和党中道派を取り込むことが出来ないだけではなく、肝心の民主党内でも反発して投票しない党員さえ出てくるかも知れませんね。

    民主党があれだけ大騒ぎしていた大統領の弾劾裁判にしても、終わってみれば予想通りの結果でした。上院で3分の2の賛成が無いと成立しないのに、そもそも過半数にも満たない民主党に勝ち目はありません。証人を連れてくれば逆転できると思っていたのかも知れませんが、そもそも証人を連れてくるのにも過半数の賛成が必要であれば話にもなりません。

    普通の裁判所では検察側でも弁護側でも裁判官、判事が認めれば証人を連れてこれますが、弾劾裁判ではそういう仕組みではありません。民主党の筋書きには最初から無理がありました。トランプに不利になる証人を共和党が認めるはずがなく、共和党議員が造反しない限り成立しないシナリオでした。それでも進める以上は造反議員を確保出来ているのかとも思いましたが、そんなことはありませんでした。民主党の失敗は、弾劾裁判を普通の裁判のように進めたこととも言えます。

    一方のトランプ大統領は、今回の新型肺炎の問題も過小評価しているようで、対応に批判が出ています。もしかするとどうでもいいと思っているか、あるいはアメリカ以外の国の経済が弱まればアメリカが相対的に強くなれるとか思っているかも知れません。

    それよりも大統領選挙に向けて、これから党員集会が全米各地で行われるはずです。党員集会は州ごとに大量の人が集まりますので、新型肺炎対策としては最悪なイベントとなってしまいます。民主党だろうと共和党だろうと、支持を集めるための党員集会や演説などを無しで選挙戦を行うのは難しいでしょう。ある意味お祭りでもありますし、選挙資金を集める手段でもあります。トランプ一強の共和党は集会で候補者を決めなくてもいいですが、民主党はせざるを得ません。

    大統領が民主党の党員集会を含めるような形で、数週間に渡って不特定多数が集まるイベントの中止を要請したり命令したりしたら、大騒ぎになりそうです。選挙が行われるのはもっと後ですが、その時でも感染が終息していなければ選挙自体も怪しくなります。

    サンダースなり誰かが民主党の候補になり、本来は共和党を支持する人からの支持も得るようなブームを起こしたら、危機感を覚えたトランプ大統領が緊急事態だからといって選挙を行わず大統領選挙を1年先延ばしにするとか言い出したりして。そんなことが大統領権限で出来るのかどうか分かりませんが、アメリカに限らず日本でも、選挙というのは多くの住民が一箇所に短時間に集まる行事であり、有権者はともかく選挙管理委員や事務の公務員にとっては結構感染の確率が高いのではないでしょうか。今年の日本では参院選は無く、衆院の満期も来年ですので解散しない限り総選挙はありませんが、完全に感染が収まらない限り解散総選挙は無さそうです。でも、地方選挙は普通にあるんですよね。とりあえずは、個々人が気をつけるしかないですよね。

  • 兵庫県立美術館で開催されているゴッホ展を観に行ってきました

    少し前の話ですが、兵庫県立美術館で開催されているゴッホ展を観に行ってきました。

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    https://go-go-gogh.jp

    昨年の10月から今年の1月にかけて、東京の上野の森美術館で開催されていたものが、関西にも巡回されてきました。上記URLがゴーゴーゴッホというのは気付いたときには少しめまいがしましたが、ゴッホに限らず有名人絡みのURLは取得が難しいでしょうから、今後も変わったURLでの特別展はあるでしょう。

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    それはともかく、今回の鑑賞に備えて、原田マハさんのこちらの本も直前に読みました。

    ゴッホのあしあと 日本に憧れ続けた画家の生涯 原田マハ / 著
    https://www.gentosha.co.jp/book/b11692.html

    ゴッホ展に備えて買ったというよりも、AmazonのKindleストアで幻冬舎新書の安売りセールがあったので読んでみたのですが、展覧会と合わせて読むと理解が深まった感じがしていいですね。

    この本の中では、ゴッホとその弟テオとの間では膨大な数の手紙のやり取りがあったとあり、たびたび引用されていましたが、ゴッホ展でも作品と作品の間に手紙の一節が掲示されていましたので、その点も興味深いゴッホ展でした。

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    サンレミの修道院に心の病として放り込まれた後の方が躍動感や生命力を感じる画風になっているのも不思議なところです。そもそも本当にそのような病を抱えていたのか、19世紀末の精神医学からは妥当だったとしても、現代医学だとまた違った診断になったかも知れません。

    そういえば、私の好きなG・K・チェスタトンの「詩人と狂人たち」にも最後の方に20世紀初めの精神病院が舞台となる短編がありました。

    詩人と狂人たち 【新訳版】 G・K・チェスタトン 南條竹則 訳
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488110123

    一見、狂っているように見える人についての描写はチェスタトン独特の鋭さと面白さがあり、チェスタトンを好きな部分でもありますが、
    「人が狂っている」
    と判断することの難しさを、ゴッホ展とチェスタトンから思い起こしてしまいました。

    19世紀後半、絵画はそれまで担っていた情報伝達の役目を写真に奪われました。それまでの絵画が情報伝達のためだけに存在していたわけではありませんが、肖像画や風景画がその人の顔や遠い場所の情報を伝える目的もあったことは確かです。しかしその点では写真に確実に劣ります。デフォルメして分かりやすく伝えたいことを伝えることは絵画の特性でもありますが、精密さや正確さから離れて絵画を次世代の絵画たらしめる印象派の登場は、偶然と言うよりは歴史的必然性があったようにも思えます。

    筆の跡をはっきりと残す技法も、絵の具をぼってりとキャンパス上に盛るかのように描くことで立体的に感じさせますから、ある意味、二次元に過ぎない写真に対抗する三次元的な企みだったのかなあ、といったこともゴッホ展を観ながら考えました。

    しかし、最近の新型肺炎の流行を考えると、密閉空間に近い美術館・博物館での展覧会もちょっと怖いですね。早く収束してほしいものです。次は、神戸市立博物館に巡回されてくる、

    コートールド美術館展 魅惑の印象派
    https://courtauld.jp

    こちらを観に行くつもりですが、3月中はまだ無理かなあ。6月21日までなので、さすがにその頃には収まっていてほしいのですが。

  • 新型肺炎の感染拡大防止のための金融政策と、マスク取り付け騒ぎについて

    新型肺炎の感染拡大防止のため、いろいろなイベントが中止になり、また学校への休校要請もあったりと、政府も自治体も各種団体組織も、ここが瀬戸際として必死の抑え込みに取り組んでいます。

    そんなことしたって感染は広がるという人もいますが、何もしないよりはマシでしょうし、いずれ感染するにしても時間を遅らせればその分、特効薬の開発までの時間稼ぎにもなるはずです。

    何が対策として効果があるか、というのは虚実入り交じって情報が錯綜していますが、何が嘘で何が本当あるいは事実なのかは冷静に見極めなくてはなりません。専門家じゃないから分からない、と言う人もいるかも知れませんが、専門家でなくても少し考えたら嘘っぽいことくらいは分かることも多いです。

    新型コロナウイルス特設サイト
    https://fij.info/coronavirus-feature

    こういったサイトを参照するのもいいでしょう。ただし、このサイト自体にも書いてあるとおり、「100%正しいとも限りません」。何かを100%信じないことは、何かを100%信じることと同じです。はっきり言うと、信じられるのは自分の判断のみです。自分の判断で自分が行動するのはいいですが、それをSNSや口コミで拡散して多くの人に不正確な情報をまき散らすのも怖い話です。

    さて、少なくとも3月中頃までは人が集まるようなイベントや、それこそ外出すら控えることが多くなるでしょうから、中小零細企業を中心に資金繰りや経営そのものが苦しくなるところも多いでしょう。

    先日、確定申告の期限を延長するという発表がありましたが、それだけでは不十分です。結局政府負担つまるところは国民負担になってしまいますが、中小零細企業に対して、例えば月商1ヶ月分の無担保無利子長期間の融資を行うとか、非正規従業員が休業により受け取れなくなる給与分を税金から補填するとかあってもいいでしょう。でないと、無理に営業する企業や無理に出勤する従業員が出て、感染拡大につながりかねません。財政負担は大きな問題ですが、金で解決出来る問題は金で解決しておくべきでしょう。

    マスクや消毒液などが不足している問題もあります。ドラッグストアの開店前に列が出来て開店と同時に売り切れる、というのも一種のパニックでしょう。いわば金融不安・銀行経営不安が起きたときの取り付け騒ぎに近いものがあります。

    銀行の取り付け騒ぎを抑える方法は、
    ・政府と中央銀行が預金保護を宣言
    ・当該銀行に大量の現金を運び込み、それをマスコミや預金者に見せる
    ・希望者全員に払い戻しする
    この3つを実行すれば収まります。

    今回のマスク不足は、転売目的で確保する人間がいることも原因になっているはずですので、その分も大量にマスクを生産しないといけませんが、対策としては同じことです。転売屋も含めて人々が、
    「いま慌てて必要以上のマスクは買わなくてもいいんだ」
    と思うまで、ドラッグストアやコンビニにマスクが溢れるようになるまでマスクを大量生産するしかありません。もし現時点での必要数を超えて大幅に作りすぎたとしても、政府・自治体・企業や各種団体あるいは各家庭で今回の問題に懲りて備蓄するはずですから、マスクメーカーや小売店舗が大量の不良在庫を抱える、という可能性も少ないのでは無いかと思います。もし不良在庫が出たらそれこそ政府が買い取るべきでしょうね。

    ともかく、今回の新型肺炎については将来的に、SNSにおけるデマやネットでの転売について社会学的に貴重なデータを提供することになると思います。そうはいっても、それどころではないのは今現実に生きている人間ですが、SARSやMERSよりも大幅に致死率が低い以上、現実問題としてはどうやってパニックにならないようにするかが重要だと思います。

  • 対称性の中にある非対称性の美しさ

    人間の顔写真を縦半分に区切り、左右のどちらかを反転させて表示させると不自然な顔になります。

    これは美人・不細工関係ありません。これは人間の顔のパーツは左右対称に配置されていますが、実際にはぴったり左右対称に作られているわけではないことと、左右が微妙に非対称であることを私たちの意識が当然であると考えていることを意味します。

    これは個人的な偏見になるかも知れませんが、過度な整形をした顔が不自然に見えてしまうのは、綺麗すぎることが原因なのではないでしょうか。

    高度なCGやロボットに感じる「不気味の谷」にも関係しているかも知れません。

    現実の、自然はそんなに綺麗な対称物はそうそうありません。そこら辺の葉っぱを拾って葉脈を見ると、左右対称っぽいですが実際はそうではありません。しかしだからこそ、その自然性に美しさをかんじるのでしょう。

    芸術作品や建築物など、生き物ではない場合は完全な左右対称でも美しさを覚えることもあります。ただ、そういった人工物でも生身の人間から遠いか近いかによって変わると思います。具体的には、肖像画のような人の顔そのものを描く場合は、左右対称だとやはり変な感じがするはずです。逆に、何十メートル、何百メートルといった巨大建築物であれば気にならず、綺麗さに感銘を受けることも出来ます。不自然さは感じられません。

    左右が対称っぽいのはデザイン的にも利便性も使い勝手が良いものだとは思います。右足と左足に大きな差があるとしたら、あるいは顔の右側に目が二つあり、左側には一つだとしたら、生物としてもバランスが悪く、生きるのが大変でしょう。人間ではなく動物でもそうです。しかし、右利きと左利きがいるように全く左右同じではないですし、内臓は配置も左右対称ではありません。

    左右対称っぽいことに意味はあるでしょうし、また実際は左右全くの対称ではないことにも意味はあるのでしょう。ただ、こういったことを気にかけること自体が人間の浅はかさで、人ならぬ存在からしてみたらどうでもいい話でしょうね。